いらない土地を国に「あげる」制度が新設?相続土地国家帰属法(2023施行予定)とは?
今回は、2023年に施行予定となっている『相続土地国家帰属法』がどういったものなのかについて簡単にご紹介していきたいと思います。現在、使ってもいない土地で、売る事ができない状態で困っている…という方には朗報かもしれませんので、ぜひ最後まで読んでいただければと思います。
以前、「日本の空き家問題が深刻化!そもそも空き家は所有者にもさまざまなリスクが存在します!」という記事でもご紹介していますが、空き家問題が深刻化している令和3年現在、日本国内には九州とほぼ同じ面積に匹敵するほど「所有者がわからない土地」が存在すると言われており、老朽化した空き家や不法投棄場所になる…などといった問題が懸念されています。こういった放置された土地に関しては、再開発ができない…ということや、国も固定資産税が徴収できないなどのデメリットが存在しており、不明土地が原因で多数の問題が発生していることから、国が問題解消のためにさまざまな手法を検討し始めています。
そして、不明土地解消のための一つの方法として、令和3年4月21日に「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(相続土地国庫帰属法)」が可決成立しました。この法律に関しては、今後不明土地を発生させないための仕組みとして考えられたもので、今後空き家を相続する可能性がある方全てに関連してくるかもしれません。
なお、既に発生している不明土地問題を解消させるための仕組みとして「相続登記等の義務化(2024施行予定)」というものもあるのですが、これはまた別の機会にご紹介します。
相続土地国家帰属法のメリットとは?
それではまず、「相続土地国家帰属法」という新制度ができた場合のメリットから考えてみましょう。そもそも、「せっかく相続した土地なのに、なんて国にあげる必要が?」などと考えてしまう方も多いかもしれませんね。これについては、土地などの不動産は、所有しているだけで固定資産税などの税金がかかってしまいますし、その土地が原因で周辺環境に害をなさないようにするため、適切な管理を行っていかなければならないことから、さまざまなコストがかかってしまうため、処分できるだけでありがたいと考える人も多いのです。もちろん、相続してそこに住み続けるというのであれば、気にする必要はないのですが、今の時代、親とは遠く離れた場所に自分の家を購入し暮らしているという方が多く「今さら実家を相続しても取り扱いに困る…」なんて方は多いのです。こういった場合、相続した土地を売却しようと考えるかもしれませんが、立地条件が悪い、建物の老朽化が進みすぎているなどといった理由で、買い手がつかない…なんてことも考えられるわけです。
この制度がない現在でも、不用な土地を相続したくない場合には、相続放棄をすることで、その土地を第三者に押し付けることは可能です。ただし、相続放棄の場合、「不要な不動産だけを放棄する…」なんてことはできず、全ての相続財産を放棄することになってしまう訳です。つまり、プラスの資産などを相続したい場合には、自動的に「不要な土地」までついてきてしまう訳です。さらに、相続放棄をするかどうかは、「相続の開始があったことを知った日から3ヶ月以内」と、かなり短い期限が設けられていることから、慎重に検討することもなかなか難しい…というのが現状なのです。
これが今回の制度ができることで、土地を相続した後からでも土地の放棄ができるようになるという画期的な制度になっています。制度の利用には、かなり厳しい条件が付いていますので、以下でその条件についてもご紹介していきましょう。
相続土地を引き取ってもらうための要件について
不用な土地を相続したとして、国が簡単に引き取ってくれるかというとそういうわけではありません。土地を引き取るには、国が定めた「人の要件」と「土地の要件」を満たしている必要があり、それぞれかなり厳しい要件となっています。
人の要件
まずは人の要件からです。
原則として、相続などにより土地所有権の全部またが一部を取得したものとなります。要は、現在不用な土地を持っていてその取扱いに困っている…といった人には関係がなく、あくまでも相続などを契機に土地を取得した人が対象です。
なお、例外として、共有不動産の場合、全員揃ったときのみ承認申請が可能なのですが、所有者の中に1人でも相続が発生すれば、他の人は相続などによる取得かどうかは要件でなくなります。
土地の要件
次は、土地に関する要件です。以下のいずれにも該当しないことが要件となります。
- 建物のある土地
- 担保権(抵当権など)または用益権(地上権・永小作権など)が設定されている土地
- 通路やそのほかの人による使用が予定されている土地として政令で定める土地が含まれている
- 土壌汚染対策法第2条第1項に規定する特定有害物質により汚染されている土地
- 境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属または範囲について争いがある土地
- 崖(勾配、高さその他の事項について政令で定める基準に該当するものに限る。)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの
- 土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地
- 除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地
- 隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地として政令で定めるもの
- 通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地として政令で定めるもの
承認申請は認めてもらうためには、上記の要件を全てクリアしていなければいけません。なお、省令、政令の詳細はこれから決まるそうです。
注意が必要なのは、承認申請が認められた場合、10年分の管理に要する費用の納付(第10条第1項)が必要とされています。土地の所有権は、申請者が管理に要する費用を納付したときに帰属するとなっています。「無料で引き取ってくれる訳じゃないんだ…」と考えるかもしれませんが、自分で所有している場合でも、土地の管理は必要ですので、それが必要なくなると考えれば、問題はないのかなと思えます。
手続の流れについて
ここまでの要件を全て満たしているかは法務局により審査されることになります。審査では、実地調査などが行われる場合もあるのですが、一般的に、以下のような流れで手続きが進みます。
- STEP1 法務局へ承認申請
土地の所有者が、法務大臣に対して、国庫帰属の承認を申請します。所定の手数料がかかります。 - STEP2 法務局における審査
要件を充たしているか審査が行なわれます。実地調査が行われる場合もあります。 - STEP3 承認の通知
要件を充していれば承認され「承認の通知」が行なわれます。なお、要件不充足により承認されなかった場合も、その旨が通知されます。 - STEP4 負担金の納付
承認通知書に記載された負担金(10年分の管理費)を納付します。なお、通知を受けた後、30日以内に負担金の納付をしなかった場合、承認はその効力を失います。 - STEP5 国庫帰属
負担金を納付した時、その土地は国に帰属され、元の土地所有者は、当該土地を管理する義務を免れます。
まとめ
今回は、2023年施行予定となっている『相続土地国家帰属法』がどういったものなのかについてご紹介してきました。日本国内には、広大な面積の不明土地が存在しており、国もその取扱いに困っている…というような状況なのです。そのため、今後これ以上、所有者不明の土地を増やさないための対策として考えられた制度だと言われています。
ただし、承認申請の要件が非常に厳しい事や、10年分の管理費を先払いしなければならないなど、正直そこまで使い勝手が良い制度とはとても言えないのが現状なのではないでしょうか?基本的に、ほとんどの方は、この制度を利用するための要件を満たせない…と考えられますし、負担金の事を考えると、安くても買取してくれるような業者に依頼するのがオススメです。
『相続土地国家帰属法』を検討するような土地であれば、仲介で買い手が付くようなことはおそらくありませんし、弊社のような不動産買取サービスを利用してみると良いでしょう。