入居者がいる賃貸アパートはそのまま売却することができるのか?

今回は、不動産の売却でも、一般的な戸建住宅の売却とはかなり異なる部分がある、賃貸アパートの売却について考えてみたいと思います。

将来的にも、賃貸経営など全く考えていないという方でも、思わぬ形で賃貸アパートを手に入れてしまい、その取扱いに困ってしまうケースは考えられます。例えば、既に親元からは離れて暮らしている方に、相続が発生した場合、親が経営していた賃貸アパートを相続することになった…となれば、ずぶの素人の手元にアパートが回ってきてしまうのです。そして、相続でアパートを手に入れるケースでは、アパートには入居者が付いるというケースがほとんどでしょう。

この場合、相続する方が賃貸経営を引き継ぐ気がなく、アパートを売却してお金に換えたいと考えた時には、「そもそも入居者がいるのに物件を第三者に売却することができるのか?」と言う点が気になってしまいますよね。そこでこの記事では、入居者がいるアパートを売りに出すことがそもそも可能なのか、またアパートを売ると考えた時に注意しておきたいポイントについてご紹介していきます。

入居者がいるアパートって売却できるの?

それではまず、大前提となる「入居者がいるアパートは売りに出せるのか?」についてご紹介しておきます。入居者は、物件オーナーとそれぞれ賃貸借契約を結んでいるわけですので、親族である人に相続される分には仕方ないものの、全く関係のない第三者に売却することは禁止されていそうだな…と考えてしまう方もいるかもしれませんね。

この点について、結論から言ってしまいますが、入居者がいるアパートでも問題なく売ることはできます。住人からしても、アパートのオーナーが変わるだけで、自分たちの生活に直接的な関係が無く、何か大変なことになるようなことはありません。

こういった、入居者がいる賃貸物件の売買に関しては、『オーナーチェンジ』などと言われており、そこまで頻繁に行われることではないものの、そう珍しい事でもありません。例えば、今回説明しているような相続で手に入れたとか、単純に賃貸経営者が高齢になり、物件の管理が難しくなったから手放したいと考えて売買するケースが多いです。

賃貸アパートの売却が難しい

上述のように、入居者がいるアパートの売却事例自体は特に珍しい事ではありません。例えば、比較的築浅で、駅近など立地が良い物件になれば、売りに出せばすぐに買い手が殺到するというケースも珍しくないでしょう。

しかし、賃貸物件の売却は、戸建て住宅とはかなり視点が異なることから、場合によっては売りに出しても全く動かない物件になってしまう恐れもあります。と言うのも、賃貸物件は、入居希望者からどう見られるのかが非常に重要で、築年数が経過していてボロボロに老朽化しているアパートになると、成約率はガクッと下がってしまうと考えた方が良いですよ。
特に、法定耐用年数を超えたアパートになると、安全面のリスクが非常に大きいとみなされてしまい、売りに出しても何年も売れ残ってしまう…なんてことも考えられます。賃貸アパートは、木造や軽量鉄骨造の建物がほとんどですが、この場合建物が劣化しやすい構造ですので、売却を考えているのであればできるだけ早く売ってしまった方が良いです。

アパート売却の注意点

上述したように、賃貸アパートなど、入居者がいるような賃貸物件でも、売却すること自体は特に珍しい事ではなく、物件の状態によっては早期売却も不可能ではありません。

ただし、戸建て住宅や分譲マンションのように、人々が居住目的で購入する物件とは、市場での評価され方が全く異なるという点は注意が必要です。例えば、中古住宅の売買などであれば、周辺に買い物できる施設はあるか、学校の校区はなど、物件周辺の住みやすさなどが重要視され、その評価によって売買価格が変わります。

一方、賃貸アパートになると、単純な住みやすさではなく、その評価は現状の住人の数なども含めた、「アパートを購入して運営した場合、どの程度の収益になるのか?」がポイントになるわけですね。要は、賃貸アパートなどは、居住目的で購入するわけではなく、あくまでも投資家が賃貸経営で利益を出すと言う投資目的で物件を購入するわけです。

こういったこともあり、単純に周辺の生活利便施設が整っているだけでなく、物件に入居者づけが容易になる賃貸設備が備わっているのか、購入後の管理・修繕費にどれぐらいのコストがかかるのかなども確認されるわけです。築年数が浅ければ、リフォームなどの修繕にそこまでコストがかかりませんが、老朽化した建物の場合、安く購入できても修繕にコストがかかり、空室のリスクも高いと判断され、「儲からない物件」と敬遠されてしまう訳です。

賃貸アパートなどの投資目的物件は、利益とコストの見込みがどれほどで、購入後何年で収益に転じるのかをしっかりと計算して物件が選ばれます。その点を考えると「入居者がいる」と言うことは、メリットに働くこともあります。

アパートの買主は物件の近くにいるとは限らない

賃貸物件を売却する際のもう一つの注意点としては、仲介業者に買い手を見つけてもらおうと考えて、地元の不動産会社に相談しただけでは、買手が見つからない可能性が高い点です。

上述したように、中古住宅であれば「そこに住む」ことを考えている人が買い手になります。そして居住用の物件を探すときには、地元の不動産会社に物件探しを依頼しますので、地元の不動産会社に相談すれば問題ないわけです。

しかし、アパートのような投資用物件の場合、こういった顧客が買い手になるわけではないので、地元の不動産会社に仲介を依頼しても、投資家の目に物件情報が届かない可能性が高いわけです。もちろん、地方でも、自宅の近くに収益用の賃貸物件が欲しいと考えるような方もいると思いますが、不動産経営は近くに住んでいる必要などはないので、もっと投資家の多い東京や大阪など都市部のネットワークに情報を出さなければ、早期売却は難しいと考えましょう。

東京や大阪などであれば、収益物件を専門に取り扱う業者もありますので、そういった不動産会社に相談すると良いでしょう。

土地だけ買いたいと言われたらどうする?

居住用の中古住宅の売却時でも、「新築を建てる予定だから、建物を解体してくれたら買います」と言われることがあります。これと同じく、賃貸アパートなどでも、老朽化した建物はいらないから土地だけ買いたいという要望は少なくないと言われています。

例えば、商業地に近い立地の場合、アパートの場所がお店を出すのに最適だと思うが、アパートが邪魔だ…となるケースですね。特に、木造や軽量鉄骨造のアパートであれば、築年数が経過した建物が存在することが、「売れない原因」になってしまうケースがほとんどですので、どうしても売れないアパートは、建物を解体したほうが早いと考えておきましょう。

アパートを解体するなら立ち退きが必要

入居者がいるアパートであれば、解体するには現入居者に立ち退きしてもらわなければいけません。賃貸アパートの立ち退きは、基本的に売却の6ヶ月~12カ月前に立ち退き勧告を行い、立ち退き料を支払って納得してもらう必要があります。

なお、現入居者に支払う立ち退き料に関しては「新居の入居にかかる費用全額(保証金・敷金礼金・仲介手数料など)」もしくは「家賃の半年~1年分」という大金になるので注意しましょう。ただし、これほど多額の立ち退き料を提示したとしても、すんなり立ち退きに応じてくれない人もいるので、その辺りは注意した方が良いです。

例えば、築年数が経過した激安のアパートなどになると、高齢者や生活保護受給者などが住んでいることも多く、こういった方は引っ越したくても次の物件の入居審査に受からない…なんてケースがあるのです。一般的に、建物を解体して売却する際には「築年数が経過して、これ以上は老朽化で危険なので解体することになりました」と説明するのが一般的です。しかし、それでも「次に引っ越すとこが無いので立ち退きには応じない!」と言う入居者もいるかもしれませんので、そういった場合は、売主側のネットワークで受け入れ先を探してみるのも良いのではないでしょうか。

まとめ

今回は、居住用の中古住宅の売却ではなく、入居者のいる賃貸アパートの売却を検討した場合、そもそも入居者がいる状態のアパートを売却することができるのかについて解説してきました。

まず大前提としては、賃貸物件の売却という行為自体は、特に珍しい話ではなく、一般的に行われている取り引きです。ただし、賃貸アパートは、そこに住むことを目的に購入するのではなく、投資目的で購入する物件となりますので、買主の希望は通常の不動産売買とは異なると思っておきましょう。

例えば、築浅でそれなりに立地が良い物件であれば、入居者が付いているということは、有利に働くことはあっても不利になることはないでしょう。しかし、アパートを取り壊す必要があるような築古物件の場合、立ち退きを請求したとしても、なかなか立ち退いてくれない…なんてケースも珍しくなく、土地をスムーズに運用できなくなってしまうと考えられることから、売却が非常に難しくなってしまいます。築古物件の場合は、入居者に立ち退いてもらった後に売りに出す方が早いかもしれませんよ。